Songs of Stars ③上を向いて歩こう

上を向いて歩こう

作詞 永六輔

作曲 中村八大

今から約60年前。1961年(昭和36年)、永六輔さん28歳の時に作られた歌です。この作品は以来2011年の東日本大震災の時にも被災地をはじめ、数多くの場所で歌われ、人々を勇気づけてきました。私自身もこの作品が物心ついたころから耳にし、学校でも何度となく歌ってきました。こんなにたくさんの人に歌われ、愛されている作品ですから、作詞の永六輔さんは落ち込んでいた人を勇気づけ慰める作品を作ろうという思いで名曲が出来上がったのだとばかり思っていました。

1961年というと59年、60年と続いたも安保闘争も日米安全保障条約の自然成立に終わった翌年。背景には先日ご紹介した「やつらの足音のバラード」に通じる、東西冷戦という世界的な流れの中にあったと思います。運動に参加した一人ひとりの心を覗くと空っぽにってしまうような時間でもあったのではないでしょうか。

そんな時代を永六輔さんも経験しました。永さんはこの年代に名作を立て続けに残しています。

「黒い花びら」       1959年7月 作曲・中村八大、歌・水原弘

「遠くへ行きたい」     1962年7月 作曲・中村八大、歌・ジェリー藤尾

「上を向いて歩こう」    1961年10月 作曲・中村八大、歌・坂本九

「見上げてごらん夜の星を」 1960年7月 作曲・いずみたく、歌・坂本九

安保闘争で東大生の樺美智子さんが亡くなったころに「黒いはなびら」が作られました。また永さん自身もデモに参加したことでテレビの仕事をやめなければならなくなり、また世の中はこのままではどうにもならないだろうという焦燥感から生まれたのが「遠くへ行きたい」でした。そして同じように挫折感から生まれた歌が「上を向いて歩こう」であり、「見上げてごらん夜の星を」とつながっていったのだそうです。

永さん自身、「上を向いて歩こう」について、以下のように語っています。

 

「『上を向いて歩こう』が歌われることに、作詞者の僕は正直いってとまどいを感じていました。この詞は、励ましの詞じゃないんです。前年の1960年(昭和35年)、60年安保で僕が感じた挫折を歌ったものですから、もともとはげましの歌じゃない。どちらかというと泣き虫の歌であって、その歌を歌って励まされた気分になるのは間違いじゃないかと思って」

 

この歌は永さん自身の、挫折の歌、泣き虫の歌。誰かを励まそうして作ったわけではなく、永さん自身も60年代安保の時代を強い信念をもって生き抜いた証ともいえる歌でした。

 

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永さんの著作『上を向いて歩こう 年をとると面白い』(株式会社さくら舎)は永さん独自の視点から日本人のわたしたちにとっての歌って何だろうという疑問を解き明かしてくれるようなとても魅力的な著作です。

 

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