島根の「声」(第27回県民手作り「第九」コンサートin島根 終演)

129日、島根県民会館大ホールにて県民第九が無事終演いたしました。

県民第九で、バリトンソロを担当させて頂くのは今回で3回目。前回は2012年でしたので6年ぶりでした。
前日のリハーサルで合唱の第一声を聞いて思いました。

合唱、めちゃ声でてる!!!

終始圧巻。欲しいところでしっかりと伸びる声。一人一人の人間が楽器となって健やかな声を出すシンプルな喜びを感じました。
終始感動しながら過ごしたリハーサルの最中、ふと思ったのは私自身もこうした島根の合唱文化の中で声を育まれてきたということでした。

最近、島根の合唱文化のルーツとでもいうべき勝部俊行先生時代の松江北高の全国一に輝いた演奏をYouTubeで聞きました。

この演奏の成熟した歌声をどのようにしたら作ることができるのか・・・最近の私の疑問の一つでした。今回、県民第九の実行委員を務められる勝部先生に、「あの演奏の歌声はどのようにして作られたのですか?」と質問したところ、勝部先生は
「あの歌声は、森山俊雄先生のメソードによるところが大きい。それで、あのような成熟した歌声が、全国的に珍しいということで評価された。」
と教えてくださいました。
島根大学名誉教授であられた森山俊雄先生は、優れた声楽家を島根から排出され続けてこられました。先生は著書『発声と共鳴の原理』(音楽之友社、1963)の中で発声について科学的に論じていらっしゃるように、確固としたメソードを持ち教育の場に実践されてきました。多少の賛否があろうとも、ともすれば感覚的なものに頼りがちな音楽の分野で皆が規範とする確固としたメソードを持つことは、それに関わる人の成長に欠かすことができません。

そうした森山先生や吉田功先生らが先導して作られてきたのが27年間続く島根の県民第九です。

今回の県民第九は、新進気鋭の指揮者水戸博之氏を招いて行われました。水戸先生の指揮はエネルギッシュでありながらも時にクールで明快でした。NHK交響楽団でパーヴォ・ヤルヴィ氏のアシスタントを務められたこともあり、テンポ感やモチーフの形作りもまさに世界の一流に通ずるものがありました。
やはり、そうした水戸先生の求めるものは時にアマチュアへの要求を超えるものでしたが、島根の合唱もオーケストラも見事にその要求に応えることができました。
結果として、島根県民の皆様や、もちろん県外の皆様にももっともっと聞いていただきたい、今後も自慢していきたい島根県民第九の素晴らしい一ページになりました。
私がオペラシンガーズの一員として、N響や都響で歌わせて頂く第九に引けを取らず終始ワクワクする時間を過ごすことができました。むしろその瞬間に音楽を造る、共有する喜びではそれらを凌駕していたように思います。

こうした演奏が可能となる大前提としてあるのが、島根の「声」だと思います。森山俊雄先生、吉田功先生、三原重行先生らが育まれて、今日まで受け継がれている島根の「声」。これは今後も絶やしてはならない島根にとって誇るべき無形文化財であると思います。
今後、島根の「声」を育んでいくために自分に何ができるのか考えていきたいです。
そして自分もその島根の「声」の一つであるということ。それに気づくことができた大変幸せな本番でした。

p.s. 本番前、水戸先生に「一楽章からしっかり会場温めときますんで」という言葉をいただきました。
数年前までは僕も使っていたけど、いつしか使うことがなくなっていた「あっためとく」。
とても大事な心意気を思い出しました。
共演者やお客様や会場の空気を「あっためる」音楽。目指したいです。

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