ロジャー・クィルター《3つのシェイクスピアの歌》 Op.6

チケットは完売によりホームページでは告知をしておりませんでしたが、2月25日(土)のコンサートで演奏させていただくロジャー・クィルター《3つのシェイクスピアの歌》Op.22をご紹介させていただきます。

ロジャー・クィルター(Rodger Quilter:1877~1953)はサセックス生まれのイギリスの作曲家。1879年生まれの滝廉太郎より2歳年上ということになります。父ガスパード・クィルターは株やビジネスで成功し、1897年に準男爵となりました。クィルターはファーンバラのプレパラトリー・スクール(パブリックスクールへ入るための準備教育をする初等教育機関)を出ると、イートン・カレッジに進み、この時音楽を学び始めました。当時、英国の音楽教育は十分に確立されていなかったため、家族や知人の勧めで1896年からフランクフルトの高等音楽院で学び、学友にイギリスのドビュッシーと呼ばれたシリル・スコットや、エリオット・ガーディナ—の大叔父であり民俗音楽を蒐集したヘンリー・バルフォア・ガーディナ—がおり、彼らは共通してベートーヴェンの作曲スタイルを嫌い、フランクフルト・グループと呼ばれました。

ドイツ・ロマン主義的な作曲技法に反発する音楽観は20世紀的であり、日本の1930年代における新興作曲家連盟の作曲家に共通します。ドイツの地で学ぶ英国の作曲者たちがそういったグループを作っていたのは興味深いです。

帰国すると、1901年に《海の歌‘(“Songs of the sea”)》Op.1を書き上げ、また当時活躍していたテノール歌手ジャーヴァス・エルウィズ(Gervase Elwes:1866~1921)に《ジュリアに(“To Julia)》Op.8を書くと、クィルターは歌曲作曲家として認知されるようになりました。1921年にエルウィズがマサチューセッツ州のボストン駅での事故で亡くなると、彼を記念して音楽家のための慈善基金を設立しました。その後、1923年にはバリトンのマーク・ラファエル(Mark Raphael)と出会い、以降親密に活動を行いました。

1911年、女優イタリア・コンティ(Italia Conti)のプロデュースによってロンドンのサヴォイ劇場で初演された子供劇『虹の終わる場所に(Where the Rainbow ends)』の劇付随音楽を書くと大成功をおさめ、長年に渡ってシーズンのオープニング演目として指揮をしました。

ほとんどのクィルターの作品は1923年以前に書かれましたが、それ以降も1936年にコヴェントガーデとロイヤル・オペラハウスで初演されたオペラ《ジュリア(Julia)》を含む多くの作品を、児童書の編集者で詩人のロドニー・ベネット(Rodney Bennet:1890~1948)と共に創作しました。

甥のアーノルド・ヴィヴィアンが第二次世界大戦の惨劇で亡くなると、彼の神経質な性格と、同性愛者としての生き辛さもあいまって重度の精神障害に陥ってしまいました。

1952年BBCによって75歳の記念コンサートが開催されましたが、誕生日を待つことなく1953年に永眠しました。

クィルターが残した作品のほとんどは歌曲作品です。他にもいくつかのピアノ曲やオーケストラ音楽、劇付随音楽を作曲しました。室内楽作品も残しましたが、それらは彼の他の作品を編曲したものでした。

明治から大正時代の日本の作曲家に、歌曲作品が多いことはクィルターと共通するものを感じます。また、クィルターが子供のための作品を手掛けていたことと、初期の日本の音楽創作が童謡、唱歌に集中していたことにも、共通することがあるように思います。

《3つのシェイクスピアの歌》Op.6はテノール歌手エルウィズと活動を共にしていた1906年に作曲されました。三曲からなり、第一曲目‘Come away death’、第二曲目’O mistress mine’は戯曲『十二夜』より、‘Blow, blow thou winter wind’は戯曲『お気に召すまま』から、それぞれ劇中歌の詩が採用されています。

これらの詩はフィンジー、スタンフォード、ヴォーン・ウイリアムスなどの英国の作曲家のほか、オーストリアとアメリカで活動したユダヤ系作曲家エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトらも曲をつけています。

多くの作曲家の創作意欲を刺激するシェイクスピアの詩は、劇中ではピリリと効き、歌曲になると、作曲家のイメージを膨らませそれぞれに特徴的な味を醸し出しています。クィルターの作品は「劇中歌」の性格よりも「歌曲」としての性格が濃く、それぞれの詩の内容をとらえた音楽が施されています。コルンゴルトの音楽が劇中歌の性格をもっているのとは対照的です。

作曲家と演奏家の蜜月の関係は、ベンジャミン・ブリテンとピーター・ピアーズを思いださせます。エルヴェスの演奏スタイルもピアーズと似ているように思います。

エルヴェスによる♪‘O mistress mine’

おまけ
《こどもたちの序曲》Op.171919
8分すぎから「きらきら星」のメロディーを聴くことができます。

ほとんどクィルターの伝記解説に徹してしまいました。伝記の情報ソースは以下のホームページです。
http://valerielangfield.co.uk/Quilter/index.htm
(最終閲覧確認日:2018年2月21日)

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